Hikma v. Amarin(最高裁判決 202664日)

24-889 Hikma Pharmaceuticals USA Inc. v. Amarin Pharma, Inc. (06/04/2026)

最高裁は、スキニーラベルによりFDA承認を取得したジェネリック医薬品について、特許用途での使用が予見可能であることのみを理由として271(b)の誘因侵害責任を認めることはできないと判示した。ジェネリック企業がハッチ・ワックスマン法に基づくSection viii carve-out制度を遵守し、特許用途での使用を積極的に推奨・奨励していない限り、「actively induces」の要件は満たされない。 

Summarized by Tatsuo YABE on 2026-06-11 


 

米国最高裁は全員一致(Ketanji Brown Jackson 判事執筆)で、Hikma(ジェネリック企業)によるジェネリック医薬品の販売行為は、米国特許法35 U.S.C. 271(b)項の誘因侵害(induced infringement)を構成しないと判示した。本件においてHikmaは、先発医薬品Vascepa®について、特許で保護された心血管リスク低減用途(CV indication)をFDA承認ラベルから削除した、いわゆる「スキニーラベル(skinny label)」によりFDA承認を取得し、ジェネリック医薬品を販売していた。

最高裁は、ジェネリック医薬品が市場に流通すれば、医師が特許用途にも処方することは十分予見可能であり、実際にそのような処方が行われることも想定されると認めた。しかし、そのような結果が予見可能であるという事実だけでは、271(b)項の「actively induces(積極的に侵害を誘引する)」要件を満たすものではないと判示した。

特に最高裁は、Hikma1984年ハッチ・ワックスマン法に基づくSection viii carve-out制度に従い適法にFDA承認を取得したこと、また「ジェネリックであること」や「AB評価を受けていること」を説明する通常の商業活動は、特許侵害を積極的に促進する行為(271(b)項の誘因侵害)には該当しないと判断した。その結果、医師等による特許用途での使用が予見可能であったとしても、ジェネリック企業が特許用途での使用を積極的に推奨・奨励していない限り、271(b)項の誘因侵害は成立しないと結論付けた。


1.事件の背景
Amarin社は魚油由来の有効成分イコサペント酸エチル(Vascepa®高純度のイコサペント酸エチルを主成分とする心血管疾患及び高トリグリセリド結晶の治療薬:日本では承認されていない)を開発した。FDAは当初、「用途1(SH indication)」 重度高トリグリセリド血症(Severe Hypertriglyceridemia)を承認した。その後、「用途2CV indication」 StatinLDLコレステロールを強力に低下させる薬)を服用している患者の心筋梗塞、脳卒中などの心血管イベントのリスク低減を承認した。

Amarinはこの用途2について、US 9,700,537US 10,568,861の方法特許を取得していた。

Hikma(ジェネリックメーカー)は、当初ANDA(略式新薬承認申請)のParagraph IV (21 U.S.C.  355(j)(2)(A)(vii)(IV))を利用してFDAAmarinSH用途特許の無効を宣言した(権利者Arminに宣戦布告)。当該宣言の通知を受けて、AmarinHikmaを相手に米国特許法271(e)(2)に基づきANDA訴訟を提起し、結果的にSH用途特許が無効となった。

その後HikmaSection viii (同条(j)(2)(A)(viii))を利用し、CV用途を削除したスキニーラベル(特定の用途を削除しFDAに登録されるラベル:薬の容器のラベルではない)でFDA承認を取得した。FDAは、Hikmaのジェネリック薬はAmarinVascepa®と成分及び治療学的に同等であるとしてAB評価を与えた。

Amarinの主張
Amarinは、Hikmaが、ラベル 、患者向け説明書 、Webサイト 、プレスリリース を通じて医師にCV用途Vascepa®のジェネリック薬を使用するよう誘導しており米国特許法271(b)項の侵害が成立すると主張した。地裁はHikmaの訴え却下の申立てを認めた。しかし、CAFCは地裁判決を覆し、医師がこれらの記載を読めば、HikmaのジェネリックをCV用途で使うように勧めていると理解する可能性があるとして、271(b)項の誘因侵害を認めた。

271(b)  (間接侵害: 誘因侵害)
(b) Whoever actively induces infringement of a patent shall be liable as an infringer.
積極的に特許の侵害を教唆する(他者に仕向ける)は侵害の責を負う。

Vascepa®のジェネリック薬としてFDAAB評価を受けているのであれば、医師はFDAのラベル(CV用途は削除)を精査せずに、CV用途の患者にジェネリックを処方する可能性が高い。事実、米国50州とDCでその行為は認められている。

医師の行為はAmarinの特許侵害(直接侵害)となる可能性はあるが、医師及び病院はAmarinからすると顧客なので訴訟を起こすことはまずあり得ない。

 

薬局では当然のことながらVascepa®(新薬)よりも安価なジェネリックを薦める。

 

 

 

3.最高裁の判断
最高裁はCAFC判決を覆した。最高裁によれば、問題は医師がそう受け取る可能性があるかではない。問題はHikma自身が特許侵害を積極的に促したかである。

米国特許法271(b)項の誘因侵害の3要件
最高裁は自身の従来判例を再確認した。誘因侵害を成立させるには、以下の3要件を満たす必要があると述べた:

(1) 直接侵害者の存在 - Limelight v. Akamai2014年最高裁)

(2) 特許侵害であることの認識 - Global-Tech Appliances v. SEB2011年最高裁)

(3) 積極的な誘導行為 - Metro Goldwyn Mayer Studio v. Grokster, Ltd.2005年最高裁)

本件は要件(3)「積極的な誘導行為」のみが争点である。最高裁はGroksterおよびGlobal-Techを引用し、誘因侵害には「purposeful, culpable expression and conduct」(意図的かつ非難されるべき表現・行為)が必要であると説明した。さらに、単なる製品流通に伴う通常の商業行為(ordinary acts incident to product distribution)では足りないと判示した。

Amarinの主張が認められなかった理由(一言)
Amarinは、Hikmaの発表内容が医師を侵害に導く一連のシナリオを描けると主張した。しかし最高裁は、「そういう可能性がある」だけでは足りないと判示した。

具体例
Vascepaのジェネリック」という表現
Hikmaはジェネリック販売前のプレスリリースにおいて、Vascepa®のジェネリック、または、Vascepa®のジェネリックと等価と発表している。しかし、これは業界で普通に使われる表現であり、適法である。

 HikmaWebサイト:AB評価
HikmaWebサイトでジェネリック薬の治療のカテゴリーは高トリグリセリド(SH用途よりやや広い)と記載し、ブランド薬(Amarin)と比較しAB評価であると記載した。 AB評価は、スキニーラベルに記載された条件化においてFDAが認めた治療上の同等性を記載したのみで、HikmaのジェネリックはVascepaに承認された用途よりも限定的であることを示している。

ラベル内容(薬瓶のラベルではない)
HikmaのラベルにはCV用途が記載されておらず、StatinLDLコレステロールを強力に低下させる薬:CV用途の患者向け)を服用する患者の臨床研究に関する記載がある。しかし、この記載はFDA法上、ジェネリックは原則としてブランド品と同一ラベルを有する必要があるが、Section viii carve-outでは特許用途のみ不記載にすることが認められている。

プレスリリースでCV用途を明示的に否定しなかったこと
プレスリリースでHikmaのジェネリックはSH用途のみであると発表していない。しかし、誘因侵害を成立するには通常の商業行為を逸脱させる積極的な言動が必要であり、不作為(omission)は誘因侵害にならないと判示した。

実務上の意義(私見)
この判決の核心は、「予見可能(foreseeable)」「誘導した(actively induced)」は全く別であると最高裁が明確に宣言した点にある。

Hikmaは当然、医師が特許されたCV用途にも使う、薬局がVascepa®Hikmaのジェネリックに置換することを知っていた。しかし最高裁は、侵害行為が起こることを知っていたこと(knowledgeと侵害行為を積極的に促したこと(encouragementは違うと判断した。これはまさに、誘因侵害の成立要件である、Global-Techの法理、「② 特許侵害であることの認識」Groksterの法理、「③ 積極的な誘導行為」の間を明確にしたと言えよう。

------------------------------------追加コメント---------------------------------------

「1」 ジェネリックの完全勝利?
今回の最高裁判決によって、ジェネリックのほぼ完全勝利と言えよう。ただし、「スキニーラベルなら絶対に米国特許法271(b)項の責任を負わない」とは言っていない。最高裁はむしろ、スキニーラベルにも免責特権はないという前提を維持している。しかし、"actively induces(侵害行為を積極的に誘因する)"の基準をかなり高く設定したので、現実にはFDA制度に従い、普通の営業活動をしている限り誘因侵害の立証は極めて困難になった。したがって実務的には、ジェネリックの大勝利と言える。

「2」 今後の業界への影響
ジェネリック企業によるSection viii(スキニーラベル:特定の用途を不記載としFDAでの承認を受ける)の利用は確実に増えるだろう。今回の判決は、実質的にSection viii制度を最高裁が後押ししたに近い。従来はTeva事件やHikma事件(CAFC判決)を見て、ジェネリック企業はスキニーラベルでも訴えられるかもと恐れていた。しかし今回、最高裁は「Foreseeability(予見可能性)」は 「Inducement(誘引する)」と異なることを明確化した。結果としてジェネリック企業はより安心してSection viiiを利用できるようになる。

「3」 直接侵害者は誰か?
問題となったのはAmarinの方法特許なので、通常は医師が最有力候補となる。なぜならCV用途の方法クレームを実施するのは処方行為である。薬剤師は州法に従い新薬をジェネリックに置換しているだけなので、直接侵害者になるケースはかなり限定的かもしれない。

「4」 Amarinは病院(医師)を訴えるか?
理論上は可能。しかし、現実にはありえない。病院は顧客であり、病院を訴えると製品販売が終わる。製薬会社は普通、病院を敵に回したくない。故に、米国特許法271(b)271(c)を使ってジェネリック企業を攻撃する。これが伝統的な戦略である。

「5」 すると侵害は野放しになるのか?
そうなる可能性が高い。最高裁自身、本件でジェネリック薬がCV用途に使われることは予見可能と認めている。それでも米国特許法271(b)項による誘因侵害は成立しないと判断した。つまりハッチ・ワックスマン法を立法するにあたり議会はある程度特許された用途への使用を犠牲にしてでもジェネリック企業の参入を促進したとも言える。その結果、薬価は下がり、患者には利益となる。

「6」 将来立法される可能性は?
ゼロではない・・・ しかし、ジェネリックの薬瓶に「CV用途は禁止」と書く方向性はあまり現実的ではない。理由は、医師はそもそも薬瓶を見て処方しない。今回の問題の本質は薬瓶ではなく医療システムにある。

Hikma判決は、CV用途へのジェネリック流用という制度上の問題の存在自体は否定していない。しかし最高裁は、その問題を米国特許法271(b)項の誘因侵害の法理によって解決することを否定した。将来的に対応がなされるとすれば、電子処方箋への用途記載義務、薬局での用途確認など医薬品規制制度側での立法的解決になる可能性はある。

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薬学出身ではない方(私を含む)のために:

「1」ハッチ・ワックスマン法
1984年以前は新薬メーカーが、新薬を開発してもFDA承認取得には5年から10年以上掛かり、その間特許期間が削られる。一方、ジェネリック企業はFDA承認手続きのために安全性試験、有効性試験をやり直す必要があり多額の費用が掛かりジェネリックの参入が進まなかった。1984年にハッチ上院議員とワックスマン下院議員が主導し、新薬メーカーには特許期間延長(PTE:現特許法156条)を付与し、ジェネリックにはANDA(略式新薬承認申請)というFDA承認の手続きを簡略化(先発品と同じ成分と同じ効能を示し、治験は不要)した。

即ち、新薬会社には「特許保護期間の延長」を与え、ジェネリック会社には「FDA承認の近道」を与えた。

「2」スキニーラベルとは?
そもそも本件で言う「ラベル」とは薬瓶(薬の容器)に張り付けてあるラベルではなく、FDAに登録される薬に関するラベルを意味する。スキニーラベル(痩せたラベル)とは、特許で保護された用途を「削除した」と明示するラベルではなく、その用途を記載しないFDA承認ラベルである。したがって、ラベル上は特許されていない用途Aのみが記載され、特許された用途Bについては何も記載されない。本件で言うと、Hikmaのスキニーラベルは「CV用途は禁止」と記載しておらず、「SH用途」のみを記載し、「CV用途」を記載していないラベルです。

「3」AB評価とは?
FDAは生物学的同等性(bioequivalence)等を審査した上で、先発品との治療学的同等性(therapeutic equivalence)を認定したジェネリック薬にAB評価を付与する。

「4」ジェネリック企業はANDA(略式新薬承認申請)でOrange Book掲載特許について以下を宣言しなければならない。

 

条文:21 USCFDA法)

 

Paragraph I

FDA355(j)(2)(A)(vii)(I)

特許なし

Paragraph II

FDA355(j)(2)(A)(vii)(II)

特許満了済み

Paragraph III

FDA355(j)(2)(A)(vii)(III)

満了まで待つ

Paragraph IV

FDA355(j)(2)(A)(vii)(IV)

特許は、無効・非侵害

 

「5」Orange Bookとは、FDAが公表する承認薬リストで、単なる薬の一覧ではなく、その薬に関係する特許やジェネリックとの治療学的同等性(AB評価など)も記載されているため、ハッチ・ワックスマン制度の中心的役割を果たしている。

 「6」 Section viii carve-out 
Section viii carve-outとは、21 USC 355(j)(2)(A)(viii)に基づきジェネリック企業が先発医薬品の特許で保護された用途のみをFDA承認ラベルから削除(carve out)し(所謂痩せたラベル「スキニーラベル」)、特許が存在しない用途についてのみFDA承認を取得できる制度である。1984年のハッチ・ワックスマン法により導入され、用途特許が残存していても、非特許用途についてはジェネリック医薬品の市場参入を可能にした。

「7」ANDA訴訟とは?
Paragraph IVFDA355(j)(2)(A)(vii)(IV))とは、ジェネリック申請者が「Orange Book掲載特許は無効又は非侵害である」と宣言する制度である。これに対し先発企業は、「そのような承認を認めれば将来特許侵害が生じる」と主張して35 U.S.C. §271(e)(2)に基づくANDA訴訟を提起できる。したがってANDA訴訟は、ジェネリック企業が実際に販売する前に特許紛争を解決するための予防的訴訟制度である。

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